オリジナルのクラフトハーブティーを手がける「daytune.」代表の松見がどのような思いでブランドを始め、運営しているのか、改めて振り返ってもらいます。
前回の【前編】では、クラフトハーブティー事業を始めようと思ったきっかけについて話を聞きました。
今回の【中編】では、どのように「daytune.」というブランドがつくられ、現在のクラフトハーブティー「daytune.tea」という商品が完成していったのか、様々な試行錯誤や商品のこだわりについて触れていきます。
模索しながら経験した、2度の挑戦と挫折
ハーブティー事業を始めると決めたものの、事業の始め方もブランドや商品の作り方も何も分からないところから全て手探りで始めたという、松見。
松見:
「最初は自分で資材や茶葉を買ってきて、ブレンドしたハーブティーを小さなジップロックに詰めて知り合いに配ったり、友人のイベントで提供させてもらったりと、本当に全部が手探り状態でしたね。
自分で事業を始めるということや商品を作るということも全部が初めてのことだったので、とにかく必要なことを勉強しながら必死に準備を進めていたらあっという間に1年くらい経っていました」
試行錯誤を繰り返しながらも約1年ほどが経った2019年の春頃、このままだとずっと“準備中”のまま時間が過ぎてしまうと感じた松見は、思い切って工場にハーブティーの製造を依頼してみることにしました。
しかし、そこで1度目の挫折を経験します。
松見:
「それまで一つずつ手作業で作っていたハーブティーを工場で製造してもらえないかと思って、製造してくれそうな工場をとにかく調べて問い合わせしてみました。
だけどいざ問い合わせしてみたら、私が作りたいと思うハーブティーの形状や条件だと機械生産は難しいらしく、なかなか製造してくれる工場が見つからず苦労しましたね。
なんとか見つけた工場に製造をお願いしてみましたが、個人で依頼したので資金も限られていたため、規格に従って製造した結果、納得のいくハーブティーを作ることができなかったんです」
この経験から、法人を設立して資金調達をしてから本格的に商品開発をしようと思った松見。2020年の4月9日に株式会社フローミュラを設立し、改めて商品づくりを進めていきました。
周りの友人などに手伝ってもらいながら急ピッチでデザインや商品を形にしていき、同年の冬には再び商品販売に向けてクラウドファンディングに挑戦します。
しかし、ここでもまた挫折を味わうことに…。
再度工場でハーブティーを製造してみたものの、茶葉が思ったよりも細かくなりすぎてしまい、またしても納得のいく商品づくりができなかったのです。
松見:
「この頃すでに2017年に会社を辞めてから数年経っていたこともあって、とにかく早く商品を形にしてリリースしたいという気持ちが強く、焦っていたんだと思います。
その結果納得できない商品が出来上がってしまったものの、クラファンもやらせてもらったし、1度目の工場生産分と合わせると合計でティーバッグ5万個分ものハーブティーを製造してしまったので、そのまま続けるかとても悩みました。
だけど、なぜ自分がハーブティーをつくるのかに立ち返って考えたときに、このまま中途半端に続けたら後悔すると思って、“ごめんなさい、やっぱりやり直したいから、全部止めさせてください”と、関係者に謝っていったん全てをストップさせてもらいました」
結局、依頼していたデザイナーさんやカメラマンさんにも正直に理由をお伝えし、商品の正式リリースは再び見送りとなりました。
徹底的に自分と向き合った先に見えてきた、ブランドの形
2度の挫折を経て、コンセプトから商品に至るまで一貫性を持った納得のいくものを作りたい、という思いが強くなった松見。
そこから1年くらいはどんなブランドや商品をつくりたいのか、ひたすら自分と向き合い、再び一から全てを作り直していきました。
松見:
「もう手戻りすることのないように、daytune.というブランドを定義するところから始めました。
例えば、もともとキーワードとして頭にあった“チューニング”ってつまりどういうことなんだろうとか、それをビジュアルで表すとしたらどんな色やデザインになるんだろう、ということを、一つ一つ納得のいくかたちになるまでとことん考え、議論して決めていって。
その上で、ブランドコンセプトを体現する商品となるように、細部まで一つずつ積み上げて考えていきました」
商品づくりの過程は、協力してくれるメンバーになかなか自分の中にある思いが伝わらず理解してもらえなかったり、結局自分がどうしたいのか分からなくなってしまったり…と、辛い時期でもあったと言います。
松見:
「それで結局、自分が本当につくりたいものは自分の中にしかない、それをとにかく出し切って形にしないことには人と一緒にやっていくのは難しいと気付いて、まずは一度自分の思いに従ってやりきろうと決めました。
とても大変な作業だったけど、でもこのとき徹底的に自分と向き合ったおかげでdaytune.として本当に伝えたいことを改めて言語化・視覚化することができたし、それを商品やビジュアルに落とし込むことでブランド全体として一貫性のある、筋の通ったものをやっと作ることができたと思っています」
そうしてとことん商品づくりと向き合った結果、納得のいくハーブティーを製造するためには手作業で一つずつ作るしかない、という結論に至ります。
松見:
「機械生産だとどうしても茶葉やお花が細かくなってしまって、本来の形や大きさを活かすのが難しかったんです。
ティーバッグで個包装入りにするというこだわりも、機械での生産を難しくさせてしまっていたようで。
ただ、ハーブティーはあくまでも自分の今の状態と向き合う“チューニング習慣”のきっかけの一つという位置付けなので、味だけでなく茶葉の大きさや色合いなどの見た目の部分や、日常での取り入れやすさにもこだわりたかったんです。
例えば仕事で忙しく余裕がない時でも、色鮮やかなお花を見るとぱっと気持ちが明るくなったりするように、
daytune.teaが目に入った時に一瞬でも今追われている思考から離れて、自分自身の感覚に意識を連れ戻してくれるような存在になれたら良いなという思いがありました」
福祉作業所との出会いからようやく軌道に
ブランドコンセプトや商品を見直し、「これがdaytune.のプロダクトだ」と胸を張って言える商品をなんとか製造できる段階になり、2022年6月に正式に「daytune.」としてのECサイトをリリースしました。
しかし、再びハーブティーを手作業でつくることとなったため、しばらくは松見自身が一つ一つハーブティーを製造する期間が続きます。
松見:
「なんとかリリースはできたものの、ECの運営や物流の手配や仕入れ、そして何より製造をするのが自分しかいないので、それぞれの作業でいっぱいいっぱいでした。
常に自分のせいでどこかの工程が滞っていて、製造から販売までがきれいに流れず、せっかくリリースしたのにこのままでは誰にも届かない…と、日々の業務に追われながら絶望していましたね」
そこで、以前から実現したいと思っていた福祉作業所(※)での製造に向けて動き出します。
※福祉作業所とは、心身に障害のある方に向けた就労支援のための施設のこと。
松見:
「前々職の会社員時代に仕事で福祉作業所と関わる機会があったんです。
私自身もADHDの性質を持っているということもあって、その頃からいつか福祉作業所の方たちと何か一緒にできたら良いな、とずっと思っていて。機会があれば施設を紹介いただいて訪問したりしてきました。
そんななかでハーブティーを手作業でつくろうと決めたときに、福祉作業所の中でそういった作業が得意な方々がいるのであれば、ぜひお願いしたいなと。
そのために、製造工程もブラッシュアップしていきました」
しかし、それも一筋縄ではいきません。
規模や作業内容など条件に合致する福祉作業所を探すのが難しかったり、やっとの思いで見つけて相談をしても途中で連絡が途絶えてしまったり…。
なかなか契約に結びつかず、少しずつエリアを広げて探し続けた結果、宮城県石巻市の福祉作業所にたどり着き、ようやくハーブティーを製造してもらえることに。
そこから製造用の機械を車で運び、スタッフの方と相談しながらマニュアルや製造管理方法を整備していき、ついに2023年5月、リリースから約1年経って福祉作業所での製造がスタートしました。
松見:
「福祉作業所に製造をお願いできるようになったことで、やっと安定してハーブティーを生産できるようになりました。ブランドとして、ようやく商品をお届けしていくためのスタートラインに立てた気がします」
失敗を経験しながらも妥協せずに納得のいく商品づくりを突き詰め、ようやく安定してクラフトハーブティーの製造ができるようになってきた「daytune.」。
つづく【後編】では、少しずつ思いに共感してくれた仲間が増えてできることが広がってきた現在と、松見がブランドを通してこれから実現していきたいことについて話を聞いていきます。
Text & Photo by てい えみ
▼【前編】の記事はこちら
【ブランドへの思い】前編:会社員時代の違和感から気付いた「自分自身に目を向けること」の大切さ